歯医者に行くとき、多くの方が「痛い」「怖い」というイメージを抱えているのではないでしょうか。
しかし、実際の歯科医院では治療だけでなく、患者さんの緊張をほぐすためにさまざまな工夫が行われています。
そして、そこには歯科医や衛生士だけでなく、歯科助手や受付スタッフの存在が欠かせません。
私自身、歯科医として働いた後に執筆活動へ転身し、数多くの歯科医院を取材する機会がありました。
その経験から感じたのは「患者さんが抱えている不安や疑問は、実はスタッフ目線から見るとより深く理解できる」ということ。
この記事では、歯科スタッフだからこそ見えてくる患者さんの本音や、歯科医療の舞台裏についてお伝えします。
少し先の未来では、痛みに対する恐怖心が薄れた「通いやすい歯医者」が、もっと一般的になるかもしれません。
ぜひ最後までお読みいただき、歯科医院に対するイメージを少しでも前向きに変えていただけたらと思います。
目次
歯医者が敬遠される理由と患者心理
患者が「痛い」「怖い」と思う背景
歯科医院で多く聞かれる声といえば「痛くされるのではないか」「治療音が苦手」「口を大きく開けるのがつらい」などが挙げられます。
特に日本では、幼い頃から“歯科治療は痛いもの”という刷り込みが強いように感じます。
歯を削る音や振動は想像以上に不安感をあおり、たとえ麻酔がしっかり効いていても「痛そう」という先入観が先行しがちです。
また、診療台に横たわっていると顔の近くに器具が入り、見えない場所でカチカチと音がする――この状況は、患者さんにとってコントロール不能なストレスを生みやすい要因です。
こうした「自分では何もできない」閉塞感が、歯医者への苦手意識を強くしているともいえます。
後回しにされやすい日本の歯科受診文化とその影響
日本では、痛みが出てから歯科を受診する方が依然として多い現状があります。
忙しさや費用面など理由はさまざまですが、「まだ我慢できるから」「大ごとになる前に少しでも先延ばしできれば…」という心理も根深いように思います。
その結果、定期健診や予防歯科の重要性が十分に浸透しないまま、症状が悪化してからようやく医院を訪れるケースが後を絶ちません。
歯科医院のスタッフとしては、痛みを訴える患者さんを見るたびに「もっと早く来てくれていたら、短時間かつ痛みの少ない治療で済んだのに…」と感じることもしばしばです。
特に虫歯や歯周病は初期のうちに処置を行えば負担も軽く済むため、「歯医者は痛くなる前に行く場所」という意識を広めることが課題の一つといえます。
スタッフ目線で見る「患者さんの本音」
診療室で見えてくる本当の悩みや要望
受付で受診理由を伺うと、大抵は「虫歯が痛い」「歯ぐきが腫れた」といった単純な表現でまとめられます。
しかし、いざ診療室に入って歯科医や衛生士が口腔内をチェックすると、まったく別の問題が潜んでいたり、「実は最近までずっと歯磨きする時間が取れなかった」など、生活習慣が影響していることも少なくありません。
また、患者さんの中には「矯正を考えているけど仕事に支障が出ないか」「ホワイトニングを試したいが費用や効果がわからない」といった、治療以外の悩みを抱えているケースも多いです。
こうした要望は、スタッフと何気なく雑談をしているなかでポロッと出てくることもあり、スタッフがこまめに気づくことによって、患者さんが抱えている悩みを早期にケアできる可能性があります。
「聞きづらい」「言いづらい」を解消するコミュニケーション術
患者さんは診療室での限られた時間に、すべての質問や不安を口に出せるわけではありません。
特に、治療中は口を開けていたり器具を入れられたりしていて話しづらい状況です。
そのため、スタッフはちょっとしたタイミングを逃さず、患者さんの表情やしぐさに注意を払う必要があります。
たとえば、治療前後の短時間や待合室へ移動する合間などに「不安なことはありませんか?」「痛みや違和感はないですか?」とさりげなく尋ねるだけでも、患者さんにとっては大きな安心材料になります。
また、「もし言いづらければ、メモやスマホのメモアプリでも結構ですよ」と促すことで、質問しにくい人が安心して自分の悩みを伝えやすくなるケースもあるのです。
歯科現場の裏側で起きていること
スタッフ間の連携が左右する診療のスムーズさ
歯科医院では、歯科医師・歯科衛生士・歯科助手・受付といったスタッフが連携して患者さんをサポートしています。
一見すると歯科医師が主役のように見えますが、裏では衛生士が器具の消毒や歯石除去を行い、助手が治療のサポートをしながら器具の受け渡しをスムーズにしているのです。
こうしたチームワークがうまく働くと、患者さんの治療中の待ち時間が格段に減り、ストレスの軽減につながります。
逆に情報の共有が不十分だと、患者さんの症状や治療進行に関するミスコミュニケーションが起きやすくなり、治療時間が長引いたり、患者さんが不安を感じたりしてしまいます。
患者からは見えない治療準備や器具管理の重要性
治療に入る前、スタッフは患者さんが見えないところで念入りな準備をしています。
たとえば、治療器具の滅菌や消毒は感染症対策の要ですし、薬剤や麻酔のチェックが甘ければ健康被害を引き起こす危険性もあるため、最新の注意を払わねばなりません。
実際の歯科医院では、以下のようなステップを踏んで安全な治療環境を整えています。
- 使用済み器具を回収し、汚れを水洗や専用薬剤で落とす
- 自動洗浄機や超音波洗浄機などで微細な汚れを除去
- 滅菌パックに器具を入れ、高温高圧のオートクレーブなどを用いて滅菌
- 滅菌完了後に保管し、必要に応じて患者さんごとに開封
このように見えない部分での作業が、安心安全の歯科医療を支えているのです。
患者さんがリラックスして治療を受けられる背景には、スタッフの地道な裏方作業が欠かせないことを知っていただきたいと思います。
患者を安心させるための具体的アプローチ
痛みや不安を和らげる説明とカウンセリング
歯科医院において、スタッフの説明力は治療結果に少なからず影響を与えます。
なぜなら、痛みに関する不安が大きいほど、患者さんは体に力が入り、治療中に余計な動きをしてしまうことがあるからです。
「どのような手順で、どの程度の痛みを感じる可能性があるのか」を具体的に伝えるだけでも、患者さんが治療をイメージしやすくなるため、恐怖心が和らぎやすいのです。
さらに最近では、患者さん一人ひとりにじっくり時間をかけてカウンセリングを行う歯科医院も増えています。
専用のカウンセリングルームを設け、歯科医師や衛生士、時には歯科助手も参加して、患者さんのライフスタイルや悩みを総合的にヒアリングすることで、より的確な治療計画を提案できるのです。
予防歯科や定期検診の必要性を伝えるコツ
治療が終わって痛みが引くと「もう行かなくてもいいや」と思ってしまう方は少なくありません。
そこでスタッフが大切にしているのが、定期検診や予防歯科の重要性を伝えること。
患者さんには、以下のポイントを分かりやすく説明するようにしています。
- 虫歯や歯周病は初期段階での発見・治療が重要
- 定期クリーニングで歯石を取り除くと、歯肉炎や歯周病を予防しやすい
- 歯磨き習慣や食生活の指導により、将来的な歯のトラブルを減らせる
また、治療後の経過やホームケアのアドバイスは、一度伝えただけでは忘れてしまいがちです。
そこで「3か月後に一度チェックしましょう」「次はいつ頃がベストですよ」といった具体的な時期を示すことで、受診のハードルを下げることにもつながります。
歯科業界の未来とスタッフの役割
新技術と患者ニーズの進化がもたらす変化
歯科医療の世界では、口腔スキャナーや3Dプリンターなどのデジタル技術が導入され、補綴(ほてつ)物の精度やスピードが向上しています。
さらに、痛みを最小限に抑えるレーザー治療や、金属を使用しないセラミックなど、患者さんが求める「快適性」「審美性」に応える技術も急速に広がっています。
今後は、AIを活用した画像診断や、遠隔でのカウンセリングシステムも増える可能性があります。
ただし、新しい技術が登場するほど「スタッフがどう扱うか」「患者さんにどう説明するか」がより重要になってくるのも事実です。
テクノロジーを使いこなすためには、人間同士のコミュニケーションを円滑にしなければ十分な効果は得られません。
経営・運営面から考えるスタッフ教育とチームビルディング
歯科医師が治療技術を高めるだけでは、患者さんが本当に満足する歯科医院はつくれません。
スタッフ全体のモチベーションと連携が高まってこそ、患者さんが「この歯科医院なら大丈夫」と信頼を寄せてくれるのです。
経営・運営の視点では、スタッフの教育プログラムを充実させることが欠かせません。
たとえば、新人スタッフには接遇や器具管理、消毒方法などの基礎を徹底し、経験の長いスタッフにはマネジメントやリーダーシップを学んでもらうなど、役割に応じた研修を設ける医院が増えています。
さらに、チームビルディングの一環として、院内ミーティングやカンファレンス、コミュニケーションワークショップなどを定期的に行うケースも。
スタッフ同士の関係性が良好だと、トラブル発生時にもお互いカバーし合い、患者さんへの対応がスムーズになります。
まとめ
歯科医院を訪れる患者さんが「痛い」「怖い」と感じるのは、ある意味では当然のことです。
しかし、その不安を和らげたり、予防歯科を定着させたりするために、歯科医院のスタッフは常に患者さん目線での対応を模索しています。
治療のメインを担う歯科医師だけでなく、受付や歯科助手、歯科衛生士といったスタッフ全員が協力してこそ「通いやすい歯医者」が実現できるのです。
私自身も歯科医として診療にあたる中で、患者さんが治療の過程をきちんと知り「ここに通ってよかった」と思ってもらえる瞬間に何度も立ち会ってきました。
その背景には、スタッフ間の連携があり、患者さんとの丁寧なコミュニケーションがあったのです。
もし歯科医院に対して苦手意識や不安感がある方でも、スタッフの姿勢や医院の雰囲気を見極めることで、より安心して通える歯科を選ぶことができるでしょう。
「歯医者は怖い」「痛い」というイメージを少しずつ変えながら、定期的なケアで歯を守り、生涯にわたって自分の歯で食事を楽しむ。
そんな歯科医療の未来を目指して、私たち歯科に携わる人間はこれからも歩みを続けていきたいと思います。
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最終更新日 2025年2月28日 by dsomeb